夏休みの読書感想文は面倒くさいし、文章を書くことは苦手だった。
私が中学生だった時、学校が指定した課題図書の本で読書感想文を書く宿題があった。
これまでは最後のあらすじを読みつつ適当に感想文を書いていたが、ある本を読み終わった時にとても腹が立った。
初めて「この本を読んだ感想を自分の意見を交えて書きたい」と思えた作品だった。
原稿用紙に自分の意見を夢中で書きなぐったら少しスッキリした。
その読書感想文を国語の先生に提出した数日後、なぜか職員室に呼び出されてしまった。
そこで私は先生に「共感される読書感想文の書き方」を教わることになる。
当時のことを思い出しながら先生に言われたことや当時読んだ本についてまとめてみた。
読書感想文に選んだ本は「沈黙」
私が読書感想文に選んだのは、第2回谷崎潤一郎賞を受賞した遠藤周作の「沈黙」という本だった。
この本の内容は江戸時代初期の長崎が舞台で、隠れキリシタンに対して幕府が行った踏み絵や拷問、処刑などの残酷な弾圧を描いた創作の歴史小説だ。
2017年1月に「構想28年」というキャッチフレーズで映画化されている。
私は読み始めてすぐにこの本を選んだことを後悔してしまった。
沈黙し続けている神という存在のために苦しみながら命を落としていく人々の気持ちが私には全く理解できなかったのだ。
自分が幸せになりたくて救われたくて信じているのに、幕府の弾圧で命を落としてしまっては本末転倒ではないか。
教えを伝える人、信じる人、弾圧する人。全てが悪いループになっているのに誰もやめようとしない。
言葉は悪いが、当時の私には登場人物全員が馬鹿に見えた。
そして一番悪いのは何もせずに「沈黙」している存在なのではないかと腹がたったのだ。
自分の意見だけを書いては共感されない
国語の先生に呼び出された私は「言いたいことを書きすぎて怒られるのではないか」とビクビクしながら職員室に行った。
すると先生は私の読書感想文を「すごくいい事が書いてある」と褒めてくれた。
しかし、「極端に意見が偏りすぎていて共感と説得力が弱い」ということも指摘された。
先生が読書感想文を書く上で重要だと教えてくれた3つのポイントをまとめてみた。
- 偏りすぎた意見は共感と説得力が弱くなる
- なぜそう思ったかを体験を交えて書く
- 相手の意見も尊重しつつ自分の意見をしっかり述べる
私ができていたのは自分の意見をしっかり述べることだけで、他は全くできていなかった。
先生は「書き直した内容がよければコンクールに応募しようと思っている」と私に言ってくれた。
ずっと苦手だった読書感想文で、先生が学年の代表でコンクールに応募したいと言ってくれてたのは素直に嬉しかった。
私は先生に言われた3つのことを意識して、読書感想文を書き直してみることにした。
①共感と説得力をアップする方法
共感と説得力は同じ意見の人だけではなく、反対意見の人からも得られなくてはいけない。
例えば「きのこの山」と「たけのこの里」というお菓子があるが、よくどちらが美味しいという意見でたびたび対立が起こる。
私が書いた読書感想文は「きのこの山」を食べたことがないのに「たけのこの里」が一番美味しいと言っているようなものだった。
反対意見の人からしたら「知りもしないで一方的な意見を書くなんて読む価値もない」と判断されてしまうだろう。
共感を得るには「きのこの山」も食べていい所を探さなくてはいけない。
次に、自分の意見に説得力を持たせるためには「きのこの山」が誕生した歴史から調べたり、材料の配分や作り方を検証し、食べた比較やアンケート調査もした上で結果的に「たけのこの里」が美味しいという結論なら反対意見の人も「どれ言い分を聞いてやろう」という気持ちにはなるのではないだろうか。
「きのこの山」を好きな人ですら気づかない良さを探し出し、対象を深く調べることによって共感と説得力はアップすると思う。
②なぜそう思ったかを体験を交えて書く
私が子供の頃は神様という存在をテレビアニメを見て信じていた。
神様は困った人を助けてくれるし、いい人が亡くなってしまったら生き返らせてくれると思っていた。
しかし、実際はそうではなかったので信じることをやめた。
そう思うようになったのは、私が3歳の時に次男の兄が交通事故で亡くなったのがきっかけだ。
私は毎日かみさまに「お兄ちゃんを生き返らせて」とお願いしたが、生き返ることはなかった。
子供の頃の都合のいい願いだが、当時の私は真剣だったので毎日毎日空に向かって話しかけた。しかし、神様には無視され続けた。
そのうちお願いするのも馬鹿馬鹿しくなって、弟が産まれたことを機に神様という存在を信じることをやめた。
そういう体験があったので、神様に期待したり沈黙に絶望する人々の気持ちが少しわかったのだ。
読書感想文に限らず、文章は体験を交えて書くことによって、なぜそう思ったのかという経緯がわかりやすくなると思う。
③相手の意見を尊重しつつ自分の意見を述べる
相手の意見を尊重しなければ共感と説得力は得られない。
自分が主張する意見と同じくらい反対意見も掘り下げて考えなければ浅い文章になってしまう。
相手の意見を尊重するために、私は登場人物全員の気持ちを理解しようと本を何度も読み返した。
その結果、信じる人の心の中には神様は確かに存在するのだと理解した。
弾圧でどんな理不尽な目にあっても、自分の意志を貫いた人はきっと幸せだったのだ。
次に自分の意見を述べるということ、それは反対意見の批判も受けるということだ。
たまにキュレーションサイトなどで「比較した結果、どちらがいいかは本人次第」というどちらともない意見でまとめている場合がある。
無難な締め方かもしれないが、読書感想文では最悪な締め方だと個人的に思っている。
人は自分が興味があることについて、書いている人の意見が知りたくて文章を読んでいるのだ。
読書感想文では、いろんな考え方を比較した上で自分の意見をはっきりと述べるのが大切だと思う。
まとめ
当時、書き直した読書感想文は先生にとても褒められ、コンクールで最優秀賞をもらった。
書いた内容は昔過ぎてほとんど覚えていないが、この事を機に文章を書くのが好きになったので国語の先生には感謝している。
当時のことを思い出して書いてみたが、まだまだ先生の教え通りに自分は文章を書けていないなと反省した。
たまに一方に偏りすぎた意見のブログを読むことがあるが、途中で離脱してあまり読まれないか炎上するかのどちらかが多い気がする。
文章は「反対意見の人を含めて最後まで読ませる」ことが大切だと思う。
そのためにはある程度の「共感」がなければ「最後まで読む価値がない」と判断される可能性が高い。
最後まで読んだ人に色んな意見を感じてもらえたら、自分の意見を述べる読書感想文として成功しているのではないだろうか。